山﨑彩音
ライター 森内淳さんによる
7月31日 三浦海岸音霊 ライブルポルタージュ

 7月25日、山﨑彩音がメジャーファーストアルバム『METROPOLIS』をリリース。7月31日にメジャーデビューして初のライブを三浦海岸のOTODAMA STUDIOで行った。

 これまで山﨑彩音はアコースティックギターを抱えてひとりでステージに立っていた。ステージ上は静寂な世界が支配。彼女は張りつめた空気を震わせながら、迷える10代の心の揺らぎを丁寧に歌い上げた。稀にバンドをバックに歌うこともあったが、そのときもバンドメンバーが捌けたあと、ひとりステージに残ってアコースティックギター1本で「キキ」という楽曲をうたった。彼女の歌のベクトルはいつも心のなかに向いていて、ライブもまさにそういったものだった。

 山﨑彩音が最後にライブをやったのが2017年の暮れ。OTODAMA STUDIOでのライブは実に8ヵ月ぶりのパフォーマンスとなった。15時。外では太陽が燦々と輝いている時間。MCの紹介で、山﨑彩音とバンドメンバーがステージに登場。彼女はアコースティックギターではなく、テレキャスターを抱えていた。その立ち姿は8ヵ月前の彼女とは別人のように思えた。

 バンドが演奏をはじめ、テレキャスターをかき鳴らしながら、山﨑彩音がうたう。“ニューヨーク69を乗りこなして甘ったるい気持ちを飛ばすの!”。その瞬間、彼女の歌は、これまでの静寂の世界を突き抜けて、心の外側へと滑空をはじめた。1曲目は「世界の外のどこへでも」。ニューモードの山﨑彩音を象徴した楽曲だ。

 アルバム『METROPOLIS』。山﨑彩音のメジャーデビューアルバムだ。半分は前作『キキ』で描いた世界観、つまり世界におびえながら彷徨える彼女の姿が丁寧に描かれている。ところが、もう半分の楽曲は世界の外へ向かう姿を映し出している。それが今作の大きな特徴。今までの作品とは違う点だ。心の内側へ向かっていた歌のベクトルは心の外へ。メジャーデビューをきっかけにそういう気分が頭をもたげたという。相反するふたつのベクトルは、彼女のなかで多面性への肯定をもたらし、「答えはひとつじゃない」という「答え」にたどり着く。“過去も未来もどうでもよく思えたんだ 自分でいれることがうれしくてさ”。 2曲目は「ロング・グッドバイ」。「世界の外のどこへでも」につづき、この曲も彼女の新しい気分をうたっている。山﨑彩音は8ヵ月ぶりのライブの冒頭で新境地にいることを宣言した。

 その新しい楽曲たちを表現するのが山﨑彩音バンド。普通、ソロ・シンガーを売り出そうとしたとき、スタジオ・ミュージシャンや中堅どころのメンバーで固めるのが常套手段。見え方はあくまで「山﨑彩音+バックバンド」にするのが必然。しかし山﨑彩音バンドは違う。

 メンバーは長島亮人(ba/本棚のモヨコ)、今野ゆうたろう(gt/本棚のモヨコ)、大谷ペン(dr/ラヂオカセッツ)、西山小雨(key/シンガーソングライター)の4人。ライブハウス・シーンで活躍する若いプレイヤーたちばかり。彼らは、山﨑彩音の楽曲の根底に流れるオルタナティブ・ミュージックの要素を引き出しつつも、山﨑彩音も含めた5人でひとつのサウンドをつくりだしていた。そういえば、彼女はコートニー・バーネットが好きだと公言している。彼女のライブもバンド全体で聴かせるスタイルだ。編成は異なるものの、目指すスタイルは共通しているように思う。この一体感から得られたサウンドはあらたな作品づくりの刺激にもなりそうだ。各ミュージシャンは多忙で、毎回このメンバーでライブはできないらしいけれど、落とし所、着地点、方向性は今日のステージが指し示した通り。これをベースに進歩・発展していくことだろう。

 ステージは3曲目「恋は夢の中」、4曲目「Nobody Else」とつづく。「Nobody Else」では山﨑彩音がテレキャスターでギター・ソロを弾くという場面も。スタジオ盤にはない、ライブのためのギター・ソロ。早くも『METROPOLIS』がアップデートされていく。外へと向かう彼女の強い意志がここでも反映されている。

 5曲目に演奏されたのがMVにもなった「ナイトロジー」。そして今日のライブの最後を飾ったのが「Wolf Moon」。「答えはひとつじゃない」山﨑彩音のもう一方の側面。心のなかを彷徨える山﨑彩音の姿。彼女は、それをあえてライブの最後に持ってきた。

 イメチェンをはかるアーティストが過去の作品やパフォーマンスを否定する場面に出くわすことがある。しかし過去を否定すれば即新しいものを手に入れられるわけではない。過去の事象の蓄積によって、アーティスト性は少しずつ変化していく。1曲目の「世界の外のどこへでも」と6曲目の「Wolf Moon」とのせめぎあい。複雑な胸の内、心境。それをすべて受け入れようとする山﨑彩音。それが19歳の彼女のリアリティだ。シンガー、プレイヤーとしての技術はまだまだ未熟な面もあるけれど、考え方はとても成熟している。

 山﨑彩音と彼女のバンドは35分間の持ち時間で、軽やかにも生きられず、かといって狂うこともできない女の子が世界の外へラブコールを送る物語を見事に綴ってみせた。(森内淳/DONUT編集部)